瀬戸内国際建築デザイン実施コンペ2025【Competition】

建築には、二つの「重力」が作用する。 一つは、その構造体にかかる物理的な重 力。 そしてもう一つは、住まう人の暮らしを縛る、目に見えない時間の重力だ。

 この家は、その両方から人を解放するための、一つの試みである。まず、物理的 な重力に抗うため、私たちは自然界が選んだ最も合理的な形、正六角形(ハニカ ム)構造を採用した。

この安定した器は、内部の柱を消し去り、地震力という強 いG(重力)を受け流しながら、まるで浮遊するような軽やかな大空間を生み出 す。

中央のハイサイドライトから降り注ぐ光は、その軽やかさを象徴する「光の 柱」となり、人の意識を上へ、外へと解き放つ。 

しかし、真に解放すべきは、暮らしに作用する時間の重力である。 家族は成⾧し 子供は巣立ち、ライフスタイルは絶えず変化する。

その変化の速度に、固定され た間取りが追いつけなくなった時、家は重く、息苦しいものになってしまう。 

この家は、その時間の重力から未来の暮らしを解放する。 

2階の柱のない自由な 空間は、将来のいかなる変化にも対応できる「無重力空間」だ。

可動間仕切りに よって、部屋は生まれ、統合され、家族の物語に合わせてその姿を永遠に変え続 けることができる。

 さらに、日々の暮らしにおいても、内外の関係性という心の重力からの自由を提 案する。

室内側のパネルを操作することで、住まい手は360°の眺望に身を委ねる か、静かなプライベートにこもるかを、その瞬間の気持ちで選択できる。

 物理的な重力から解き放たれた、軽やかなプラットフォームの上で、 時間の重力 からも解放された、真に自由な暮らしが営まれる。 

これは、家族が未来にわたっ て、自分たちらしい軌道を描き続けるための「反重力プラットフォーム」として の建築である。 


Date.           2025.06

Principal use.     住宅

Location.             岡山玉野

Structure.       木造2階建て

Site area.      440.63㎡

Total floor area. 125.27㎡